外科
基本方針
当科では、消化器からヘルニア、痔疾患まで、多様な疾患を治療対象にしております。高度に進行した悪性疾患(がん)、早期のがん、良性疾患が含まれますが、それぞれの病態にあわせた最適の治療方針を選択しております。高度に進行したがんでは、化学療法、放射線を併用した集学的治療を行い、必要な際は他臓器合併切除や血管合併切除を併施して根治切除を目指しています。また、がんの進行度にあわせて、機能温存手術やより侵襲の少ない鏡視下手術がおこなわれます。治療成績(がんの場合5年生存率など)の向上はもちろんですが、特に患者さんの術後QOLを重視して、鏡視下手術、機能温存手術を積極的に取り入れております。最近は鏡視下手術にロボットの機能を組み合わせて発展させた「ロボット支援下手術」も行われる様になりました。内視鏡カメラとアームを挿入し、術者が3Dモニターをみながら遠隔操作で装置を動かし、その手の動きがコンピュータを通してロボットに忠実に伝わり、手術器具が連動して手術を行うものです。胃がんで開始して、現在は食道がん、直腸がんにも適用を拡げています。鏡視下手術の難度が比較的高い肝胆膵領域においても、腹腔鏡下の肝切除を積極的に行っており、膵切除にも導入を行っています。
当科では、治療の際のインフォームド・コンセント(治療を始めるにあたり、私達が考えておりますことをお話しします。疾患を有する患者さんに全てをお話しし、御自身の病状を御理解いただき、そのうえで治療を始めます。)を最重要視しております。高度進行癌もできるだけ患者さんおよびご家族の要望に添ったような治療法を選んでいただいています。
がんの治療方法は発生した臓器によって大きく異なっており、それぞれの分野で日々研究がおこなわれ、進歩しております。当科では、その進歩に対応できるように、各医師は、専門とするがんの領域をもち、また当科での治療成績を全国の学会などで報告し、評価をうけております。
最近は御高齢の患者さんが増加しており、いろいろな合併症をお持ちのこともありますが、他の診療科と密接に連携し、総合的な治療をすすめております。
また悪性腫瘍に伴う身体的な苦痛や精神的な苦痛に対しては、緩和ケア部門や心療内科・精神科と連携の上、終末期に限らず生活の質の向上を目指して苦痛を取り除くよう進めてまいります。
なお、術後は安定した時点で紹介元の診療所に継続診療紹介(逆紹介)させていただくことを原則としていますが、再検査が必要な場合など、いつでも再紹介には広く扉を開けております。セカンドオピニオンに関してもお気軽に主治医にお尋ねください。
診療科の特徴
食道がん
食道は下咽頭(のどの奥)に続き、胃の入り口までの約30cmの管腔臓器です。外科手術の対象になるのは、ほとんどが悪性腫瘍、つまり食道がんです。以前は胸を大きく開けて手術する開胸手術でしたが,現在は開胸せず小さな穴から手術する胸腔鏡手術(ロボット支援下)で行っていますので,体の負担は以前より小さくなりました.
早期のがんに対しては、適切な治療法(手術,化学放射線療法,内視鏡下切除)を選択することにより、大半の患者さんが完全治癒されています。また進行がんに対しては、術前化学療法を標準治療として行っています。当科で扱った全食道がん患者さんの、がん治療の目安となるいわゆる5年生存率は60.7%でした。食道がんは患者さんによって進行度など様々ですが,ひとりひとりの患者さんにベストな治療法で治癒をめざしています.
食道がんの他に、食道胃逆流症や、食道アカラシアといった、良性疾患の外科治療にも積極的に取り組んでいます。
胃がん
当科では年間約150例の胃がんの患者さんを手術しています。このうち約半数が早期胃がんです。
早期胃がんに対しては機能温存を目的とした縮小手術を施行しています。胃の約2/3を切除する幽門側胃切除術が多いですが,胃全摘を極力避けるため,胃の上部を切除する噴門側胃切除や小さくても胃を残す(極小残胃)術式も行っています.これらの手術は従来の開腹ではなく,からだの負担が少ない腹腔鏡手術やさらに精度が高いロボット支援下手術で行っています.
進行胃がんでは、リンパ節郭清を伴う胃切除と術後補助化学療法が標準ですが,より進行した胃がんでは術前化学療法を行うなどして完治を目指す治療を行っています.より優れた治療を開発するために,積極的に臨床試験にも参加しています.
大腸がん
大腸がんは部位別癌の罹患数がもっとも多く、死亡率も女性では第1位で年々増加している疾患です。当科では年間約250例の大腸癌患者さんの手術をさせていただいております。切除可能な病変であれば手術療法が基本的な治療法となっておりますが、近年、治療法も著しく進歩し、がんの部位、進行度により術前後の化学放射線療法など含めた集学的治療も行われております。
当科では,進行度に合わせた手術方法を取り入れ、患者さんのからだに負担の少ない腹腔鏡手術や、さらに精密な手技が可能なロボット支援下手術と、拡大郭清を含めた開腹手術を施行させて頂き、患者さんに早期に社会復帰していただけるようにしております。直腸がんに対しては、排尿・性機能障害の軽減や肛門温存など可能な限り機能温存手術(骨盤内臓全摘術も可能な限り人工肛門を回避する)をとり入れ、患者さんの手術後の生活の質の向上に努めています。再発がん(肺転移、肝転移、局所再発など)に対する外科的治療にも積極的に取り組んでおり良好な治療成績が得られています。
また、今後の大腸がん診療の標準治療及び新しい治療の開発のため、臨床試験や治験、ガイドライン作成委員会などにも積極的に参加しております。
肝がん・胆道がん・膵がん
肝臓・胆道(胆嚢、胆管)・膵臓は、各臓器が隣接し、その働きも相互に巧みに連携しています。胃腸のがんに比べれば頻度も少なく、また早期発見も難しく、治療に難渋することも多いですが、手術手技の向上により以前に比べて安全で確実に行えるようになりました。
肝臓がんは、肝臓に原発する原発性肝臓がん(肝細胞がん・胆管細胞がん)と、他臓器からの転移による転移性肝臓がんに分けられます。原発性肝臓がんの多くを占める肝細胞がんは、以前は肝炎ウイルスが原因で生じる方がほとんどでしたが、肝炎ウイルスの駆除等によりウイルス性の肝細胞がんは劇的に減少し、現在は非ウイルス性の肝細胞がんが増加しています。その治療は、条件が揃えば初回から肝切除に踏み切ることもありますし、そうでない場合も、内科的治療を組み合わせながら集学的治療の一環として外科手術を選択することがあります。最近では、腹腔鏡を用いた肝切除にも積極的に取り組んでいます。転移性肝臓がんは、(原発巣の切除に加えて)肝切除をすることで、治療成績をかなり向上させることができています。必要であれば複数回の肝切除を行うこともあります。
胆道がんは大きくわけて胆嚢がんと胆管がんがあります。胆嚢がんは、肝臓に付着した部位から肝内に浸潤するだけでなくリンパの流れから膵臓へも進んでいきます。当院の胆嚢がん手術患者数は全国的にみてもかなり多く、その結果を踏まえながら、必要であれば肝切除や膵切除などを組み合わせた拡大手術を積極的に行っています。胆管がんは胆汁の通り道を塞いで黄疸などの症状を発現させるため、比較的発見されやすく、中でも遠位(膵臓に近い方)胆管がんは、膵切除をおこなうことにより治癒が得られやすい病気です。肝門部領域(肝臓側)胆管がんは解剖学的位置関係から、大量の肝切除が必要になり、手術の難易度も高く、術前術後の細やかな管理が必要になります。消化器内科(胆膵内科)医師と連携しながら、治療成績向上に努めています。
膵臓がんは、症状が出づらいだけでなく、胃の背中側の後腹膜に位置し周囲の神経やリンパに容易に浸潤していくため、消化器がんの中でも最も治りにくいがんの一つです。切除可能膵癌に対しては、術前化学療法(抗がん剤治療)を行った上で切除を行い、術後も補助化学療法(追加の抗がん剤治療)を加えることで、治療成績の向上を目指しています。切除境界領域、切除不能膵癌に対しても、化学療法等で切除が可能になったと判断した場合、切除を行います。周囲の血管が巻き込まれている場合も、血管合併切除を行います。難治性がんの代表である膵臓がんに対して、決してあきらめることなく、治療成績の向上を目指していきます。さらに低悪性度腫瘍に対して、腹腔鏡下の膵切除を導入しました。今後膵癌に対しても適用をしていく方針です。
内鏡視下手術
鏡視下手術とは従来の腹部を大きく切開する手術法と異なり、内視鏡(腹腔鏡)などの機器を使用しながら小さな傷で手術を行い、しかも従来の手術同様の治療効果が得られる方法です。特徴としては傷が小さく美容的な意味を持つほかに、手術後の回復が早く早期の退院が可能であることがあげられます。
当科では胆嚢、胆管、大腸、食道、胃、肝、脾臓の疾患を中心に鏡視下手術をとり入れています。さらに、現在では、これまでの鏡視下手術にロボットの機能を組み合わせて発展させた「ロボット支援下手術」も行われる様になりました。内視鏡カメラとアームを挿入し、術者が3Dモニターをみながら遠隔操作で装置を動かし、その手の動きがコンピュータを通してロボットに忠実に伝わり、手術器具が連動して手術を行うものです。胃癌で開始して、現在は食道癌、直腸癌にも適用を拡げています。
しかし、どのような病気でもこうした手術が受けられると言う訳ではなく、これらの手術の適応は各臓器の専門の医師が、充分に安全性や病気の程度を検討した上で決定しております。
主な術例・治療例(令和5年)
術例・治療例名 | 件数 |
---|---|
食道腫瘍性疾患 | 18例 |
胃腫瘍性疾患 | 141例 |
十二指腸・肝胆膵腫瘍性疾患 | 77例 |
小腸・大腸腫瘍性疾患 | 262例 |
スタッフのご紹介
氏 名 | 卒業年・資格 | 専門・研究分野 |
---|---|---|
櫻井 直樹 | 平成5年卒・平成11年大学院卒 日本外科学会専門医・指導医 医師臨床研修指導医 |
肝胆膵外科 |
野村 尚 | 平成7年卒 日本外科学会専門医・指導医 医師臨床研修指導医 |
胃食道外科 |
飯澤 肇 | 昭和54年卒 日本外科学会専門医・指導医 医師臨床研修指導医 |
消化器外科、肝胆膵外科 |
須藤 剛 | 平成10年卒 日本内科学会認定内科医 医師臨床研修指導医 |
大腸癌を中心とした消化器外科(外科治療・化学療法) |
盛 直生 | 平成15年卒 日本外科学会専門医・指導医 医師臨床研修指導医 |
一般外科、肝胆膵外科 |
深瀬 正彦 | 平成20年卒・平成28年大学院卒 医師臨床研修指導医 |
大腸癌を中心とした消化器外科(腹腔鏡手術・化学療法) |
鈴木 武文 | 平成21年卒・令和4年大学院卒 医長 日本外科学会専門医 医師臨床研修指導医 |
上部消化管外科・一般外科・臨床栄養 |
外田 慎 | 平成22年卒 日本外科学会専門医 医師臨床研修指導医 |
消化器・一般外科 |
佐藤 圭佑 | 平成24年卒 日本外科学会専門医 |
消化器・一般外科、大腸外科 |
内藤 覚 | 平成26年卒 医長 |
一般外科、消化器外科 |
半沢 光 | 平成29年卒 日本外科学会専門医 |
一般外科 |
榎田 会生 | 令和3年卒 | 一般外科 |
安田 英弘 | 令和3年卒 | 一般外科 |
本荘 美菜子 | 令和3年卒 | 一般外科 |
戸田 雄熙 | 令和4年卒 | 一般外科 |
中島 伸 | 令和4年卒 | 一般外科 |
黒澤 遥平 | 令和4年卒 | 一般外科 |